少年に
カゼ気味の子供を連れて小児科の待合室で順番を待ちながら、古い週刊誌のページをめくっていると、一人のサリドマイドの少年の記事が目にとまりました。
右手は中指だけ、左手はくすり指だけの少年と、お母さんの苦しい生活記録です。
どんなに苦しい毎日だったでしょう。だのに、その少年の文章は、生き生きとしています。
体操のさかあがりがどうしても出来ない。クラスで自分だけが出来ないことを知った少年は、放課後、毎日毎日暗くなるまで、ころびながら一ヶ月練習を続けました。
やっと、さかあがりのできたその少年の顔は、涙でぐっしょり。手は皮がむけ、豆と血だらけ。少年とお母さんは、だき合って喜び泣きました。
音楽の時間―笛がどうしても吹けない。先生は「K君はいいのよ」と言いますが、K君は「先生、僕だけ特別扱いしないでください」と答えます。
この少年の勇気。それから先生が特別練習をしてやって一曲吹けた時、皆のようにじょうずではなかったけど、クラス全員、拍手を送ったそうです。
また、ある日、いじわるの上級生にたち向かっていくK君。「僕は決して負けない、僕は決して泣かない」。その少年を、暖かいまなざしで一生懸命みつめるお母さん。
人の子の親として、もしもわが子がこの少年だったら、私はそのお母さんのように、力強く生きることの尊さを教えられるでしょうか。
健康こそ一番の幸せなのに、健康なわが子に感謝する心を忘れ、ぐちったり、しかってばかり。この少年に教えられました。
子供も社会の一員。いつか社会へ返さねばなりません。何よりも、不幸な子を生まないために、母親と社会が一体になって、力を合わせていきたいものです。
K君、がんばるのよ!あなたなら、きっときっと立派な人になれますよ。
昭和四十七年七月二十七日 愛媛新聞「てかがみ」掲載
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