のんのさま
子供のころ、夜空にでた月を眺めながら、母はよく「きれいな、のんのさまが出ているよ」と声をかけてくれました。そして必ず、のんのさまに手を合わせ祈っていた。
私もまた子供たちが幼いころ同じように、幼児に声をかけ、「のんのさま、はーい」とかわいい手を合わせる子らとともに、両手を合わせ「どうぞお月様、この子たちが健やかでありますように」と祈りました。
二人の孫たちと夜空を眺めながら、
「クニちゃん、ほらのんのさまがきれいね」
「おばあちゃん、のんのさまってどれ?」
「ほら、お月さんのことよ」
「ふーん、お月さんは、のんのさまなの?」
たわいのないやりとりですが、温かい言葉のぬくもりが、無性にうれしいのです。
ところが、だんだん日本古来のたおやかで、ぬくもりのある響きが少なくなってきているようで寂しく思っています。
「のんのさま」は仏様でもあります。
お仏壇に祈りながら、亡き人もみな「のんのさま」であるのです。
「クニちゃん、ひいおばあちゃんものんのさまよ」
「?」
「ひいおばあちゃんの、のんのさま、どうかクニちゃんとタマちゃんが病気やケガをしませんように見守ってください」
声をかけながら、ローソクに灯をともす私を孫たちは不思議そうに首を傾け、それでもにっこり笑いながら手を合わせていました。
「のんのさま」―なんて、すてきな表現でしょう!
平成二年九月二十一日 愛媛新聞「へんろ道」掲載
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