ある老夫婦
どうしてもあの老夫婦のことをつづりたい。
昼間は実家の父母が営んでいる食堂を手伝っている私の目に、いつもしっかり寄りそっているあの、おじいさまとおばあさま。
お医者に来た日は、いつもお店に来て、おうどんや、おすしや、ゆでタマゴを食べてお話して帰っていくお二人。
大洲の方だとかで、奥さまが目を悪くして、宇和島の眼科に長いあいだ入院して、少しよくなったとかで退院、そして週に一度くらいのわりで通院、育ちの良さがお二人に、にじみ出ていて、上品な物腰にとても好感をもっていました。
その目の悪い奥様を、おじいさまはそれはそれは優しくいたわり、お店にはいっていすにすわらすのに手をとってすわらし、まっ白のハンカチを奥様のひざの上に広げ、おうどんの汁が、こぼれないように気を使い、取りにくいうどんは、ハシにとって口に入れてあげたり、いなりずしも食べやすいようにおサラを手にもたして上げたり、ゆでタマゴは皮をむいてお塩をふりかけ、手にもたしてあげたり、見ていて本当にほのぼのして何てすばらしいご夫婦だろうと思いました。
食べてるあいだも、おじいさまは、たえず優しい、いたわりのことばをかけられ、本当にじーんと胸にくるようです。
若い夫婦の仲の良いのは、あたりまえだけど、お年寄りのご夫婦が、いたわり合っている姿って、本当にすばらしいと思います。あんなすばらしい夫婦になりたいと、しみじみ思いました。
その老夫婦が、しばらく見えないので、悪いのではないかしらと、実家の父母ともども心配していましたら、一昨日、とても元気なお二人の姿をお店でみて安心しました。
奥さまの目が、とても良くなったとかで、洋装でさっさと歩くお姿に、とてもうれしく、おじいさまの手に寄りそって、とぼとぼ歩いていらしたあの奥さまが、おじいさまの肩に寄りそって、さっさと歩く後ろ姿に「よかったわ」と、心から思わずにはいられません。
とてもすばらしい、この老夫婦に、大いに学びました。いつも微笑を忘れない奥さま、その奥さまを優しくいたわるご主人。
いつまでもいつまでも長生きしてください。心をこめて、祈らずにはいられません。
昭和四十三年九月十六日 愛媛新聞「てかがみ」掲載
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